中小製造業の5Sを異常検知・未然防止へ|清掃を点検に変える仕組みと実践手順を徹底解説

毎日清掃している。だから床はきれいになる。工具も一応は戻っている。それでも、油漏れはまた現れ、設備の小さな変化に誰かが気づいていても、対応されないまま残っている。皆さんの職場にも、そんな「ちゃんと清掃しているのに、改善につながってない」モヤモヤってありませんか。

これは、これまでの活動が無駄だったということではありません。清掃を続け、汚れに気づける状態を作ったこと自体が、すでに大切な土台です。だからこそ、次に必要なのは、さらに頑張って磨くことではなく、清掃中の「いつもと違う」を受け止める仕組みを作ることなのです。

そこで今回は、5S活動をただの掃除で終わらせず、異常検知と未然防止へつなぐための考え方と実践手順を、中小製造業の現場に合わせて整理します。高価なセンサーも、大掛かりな組織体制も、出発点では必要ありません。まずは一か所の正常を決め、見つけた変化が放置されず、対応へつながる流れを作る。そこから一緒に見ていきましょう。

目次

結論:清掃を異常検知の入口に変える

先に結論を言うと、清掃を異常検知へ変える鍵は、掃除項目を増やすことではありません。次の四つの問いを、発見から対応まで一つの流れとしてつなぐことです。

  • 「正常はどんな状態か」
  • 「ズレを見つけたら、どの基準で止めるか」
  • 「誰に、何を伝えるか」
  • 「結果をどう返すか」

清掃の目的を「汚れを取る」から半歩進める

汚れを取ることは大切です。ただし、汚れには原因があります。飛散した切粉、シール周辺の油、いつもと違う粉の溜まり方、片側だけに付く擦れ跡。拭き取る前に「これはどこから来たのだろう」と一度立ち止まれれば、清掃は点検の入口になります。

ここで大事なのは、発見した人に修理や原因分析まで背負わせないことです。清掃中に「変だ」と気づくこと、設備を止める判断、安全を確保して復旧すること、原因を掘り下げることは、それぞれ役割を分けて構いません。気づいた人が決められた基準で安全に止め、状態を短く伝えられれば、最初の一歩としては十分です。その後の復旧や原因分析は、決められた人と手順へ引き継ぎます。

仕組みは五つの動詞で考える

運用は「決める・比べる・止める・つなぐ・返す」の五つで考えるとシンプルです。

  1. 正常状態を写真と言葉で決める。
  2. 清掃しながら、今と正常を比べる。
  3. 危険や品質影響が疑われる時は、決めた基準で止める。
  4. 場所、状態、発見時刻を次の対応へつなぐ。
  5. 受付したことと、対応結果を発見者へ返す。

「返す」が抜けると、せっかく声を上げても何も起きないと感じられ、次の気づきが報告されにくくなります。異常検知は観察力だけの問題ではなく、現場の声を対応につなげる仕組みの問題でもあるのです。

5Sで見る正常・異常・未然防止

「異常を見つけよう」と言われても、「正常な状態」が決まっていなければ比べられませんよね。そこで、まず言葉の意味を揃え、清掃、点検、異常検知、復旧、未然防止を一つの作業として混同しないようにしましょう。

異常は「壊れた状態」だけではない

この記事では、異常を「決めた正常状態から外れたズレ」と捉えます。設備が動かない、製品が規格を外れたという結果だけではありません。締結部の印がずれた、ホースの表面にいつもはない粉が付いた、工具の返却位置が線から外れた、音のリズムが変わった。こうした小さなズレも、比較基準があれば気づけます。

ただし、清掃で見えた変化が、すぐに設備故障や品質不良を意味するとは限りません。清掃で行うのは診断ではなく、「普段と違うので確認が必要だ」と、決められた連絡先へ伝えることです。思い込みで設備を止めすぎることも、「大丈夫だろう」と決めつけることも避け、事前に決めた基準で対応を分けます。

清掃、復旧、未然防止の違い

例えば床の油を拭くのは、現在の汚れを取り除く処置です。漏れている箇所を特定し、安全な手順で正しい状態へ戻すのが復旧です。なぜ緩んだのか、なぜ変化を早く捉えられなかったのかを考え、同じ異常が起きにくい条件を作るのが未然防止です。

この三つを一度に求めると、一件の気づきが重い仕事になります。まず現状を安全にする。次に復旧する。その後、影響の大きさ、再発の頻度、他工程への横展開性を見て、原因対策の優先順位を決める。その順番なら、限られた人と時間でも続けやすくなります。

5S全体が異常を見えやすくする

整理で不要なモノが減ると、隠れていた汚れやズレが見えます。整頓で位置、数量、向きが決まると、戻っていない状態が見えます。清掃で手や目が対象に近づくと、変化に触れられます。清潔で正常状態を標準にし、しつけで基準どおりに比較する習慣を育てる。5Sは五つの単独活動ではなく、異常を見えやすくする一つの土台と考えられます。

清掃で止まる現場に共通する7つの壁

清掃を続けているのに異常検知へ進めない時、その理由を「みんなの意識が低い」の一言で終わらせないでください。壁の多くは、人の性格ではなく、目的、基準、時間、受け皿の設計から生まれています。ここでは提供素材の論点を7つに整理し、それぞれの見分け方を説明します。

1.5Sが掃除当番として伝わっている

作業表に清掃箇所と当番しか書かれていなければ、完了の基準は「きれいになったか」になります。異常を探すという目的が伝わっていないのに、気づきが少ないと責めるのは順番が逆です。作業表に「拭く前に汚れの出所を見る」など一つの観察項目を足すことから始めます。

2.人・時間・費用に余裕がない

生産の合間に行う活動で記録項目を増やしすぎれば、続かないのは自然です。解決は「時間を作ろう」と呼びかけるだけではありません。対象を一箇所に絞る、必須記録を場所・状態・時刻に絞る、既存の朝の共有に組み込む。こうして新しい仕事を小さくします。

3.成果が「起かなかったこと」に隠れる

未然防止の成果は、何も起きなかったように見えることがあります。そのため、気づき件数だけを追うと、多すぎるのか良いのか判断しにくくなります。まずは受付件数、完了件数、未完了の滞留日数、同じ場所の再発を見ます。目的は数値を良く見せることではなく、気づきが止まっている場所を見つけることです。

4.経営側が現場だけの活動と考えている

異常の報告があっても、修理時間、部品、改善を試す権限がなければ、その先へ進みません。経営側の役割は、スローガンを出すことだけではありません。対応に使える時間を決め、危険や品質への影響が疑われる報告を優先し、すぐに解決できない案件にも対応方針を伝えることです。

5.報告した後の流れが見えない

「誰かに言った」では、受付されたか分かりません。紙、ホワイトボード、共有表のどれでもよいので、入口を一つにします。受付番号は必須ではありませんが、「受け取った」と返す人と期限は必要です。返信のない運用は、気づきを減らす仕組みになってしまいます。

6.拭いて終わり、直して終わりになる

応急処置は必要ですが、そこで完了にすると同じ汚れを何度も拭くことになります。一方で、すべての小さな変化に深い分析を行うのも現実的ではありません。「今を安全にする」と「同じことを減らす」を分け、影響、頻度、横展開の可能性で深掘り対象を選びます。

7.変えることの負担と不安が大きい

長く続けたやり方には、現場なりの理由があります。それを否定して新しい帳票を一斉に増やせば、抵抗が起きます。「今の清掃でどこを見ているか」を先に聞き、使われている工夫を残して一項目だけ試す。変化の幅を小さくすることも、続けるための大切な設計です。

まず正常状態を写真と言葉で決める

異常検知の出発点は、異常の一覧を作ることではなく、正常状態を揃えることです。一度に工場全体を対象にせず、毎日手を近づける一か所に絞りましょう。比較できる基準が一つできると、「点検する清掃」が急に具体的になります。

対象は「変化が見え、安全に観察できる場所」

最初の対象には、発生頻度の高い汚れ、小さなズレを見分けやすい置き場、停止中に外から安全に見られる部分が向いています。回転部、充電部、高温部、高圧流体の周辺など、近づくこと自体に危険がある場所は、清掃点検の対象に入れる前に、停止・遮断・保護の手順を別途決める必要があります。

「必要なら触って確かめる」のような曖昧な指示は避けます。見てよい範囲、触れてよい条件、異音・異臭・発煙などがある時の退避と連絡を、正常写真と一緒に示します。気づきを増やす前に、気づいた人の安全を守る。この順番は崩せません。

写真には「どこを見るか」を書く

正常写真は、きれいな完成写真だけでは不足です。矢印や短い文で、比べる点を明らかにします。例えば「印の線が一直線」「受け皿に液体がない」「ホースに擦れ跡がない」「工具は影絵の中に戻る」という具合です。写真の撮影日と対象の識別情報も残し、設備や工程が変わったら更新します。

音、におい、振動のように写真で表せない感覚は、擬音だけではなく条件と組み合わせます。「立ち上げ直後だけ高い音」「無負荷で一定間隔の打音」など、いつ、どこで、どんな条件かを添えます。ベテランさんの「いつもと違う」を、現場のみんなが比べられる言葉に変える作業です。

異常基準は三段階に分ける

すべてを同じ緊急度で扱うと、停止が増えすぎるか、反対に誰も報告しなくなります。一例として、次の三段階に分けます。

  • 赤:危険、発煙、異常な発熱、製品影響が疑われるなど、決めた手順で停止・隔離・連絡する。
  • 黄:正常からのズレはあるが、すぐの影響は判断できない。写真と状態を残し、確認期限を決める。
  • 青:その場で正常に戻せ、手順も明確な小さなズレ。戻したことを記録し、繰り返す場合は見直す。

色の呼び方は職場に合わせて構いません。重要なのは、発見者の経験だけに停止判断を任せず、危険側へ倒す基準を事前に合わせることです。

清掃点検から報告・復旧へつなぐ仕組み

気づきは、見つけた瞬間ではなく、適切な対応と完了確認までつながって初めて改善の材料になります。ここが切れると、清掃点検は「気づきカードを書く活動」になり、未完了の案件だけが溜まります。入口から出口までを一本にしましょう。

最小の記録は「場所・状態・時刻」

最初から詳細な報告書を求めると、記録が後回しになります。まずは「どこで」「何が」「いつ」を残します。写真が撮れるなら添えますが、安全な距離を崩してまで撮りに行きません。停止や隔離を行った場合は、それも第一報に入れます。

口頭連絡が必要な緊急事案と、後で確認する案件は分けます。赤は「その場の安全行動→口頭連絡→記録」、黄は「記録→受付確認→期限内の判定」など、緊急度によって順番を変えます。手順は短く、作業場所の近くに表示します。

受け皿は一つ、状態は四つ

報告先が紙、口頭、メール、チャットに分かれると、全体の滞留が見えません。入口は一つにし、案件の状態を次の四つ程度に絞ります。

  • 未確認:報告はあるが、受付確認前。
  • 受付済み:内容を受け取り、次に判断する人と期限が決まった。
  • 対応中:隔離、復旧、原因確認などが進んでいる。
  • 完了:正常へ戻ったことと、必要な再発確認が終わり、発見者へ結果を返した

「様子見」は便利な言葉ですが、期限がないと永久に残ります。様子を見るなら、どの状態を、いつまで見て、変化したら何をするかを書きます。

応急処置と原因対策を別欄にする

応急処置の欄には、清掃、隔離、交換、締め直しなど、今のリスクを下げる行動を書きます。原因対策の欄には、汚れの発生源を取り除く、擦れの原因となる取り回しを変える、正常基準を更新するなど、同じズレを減らす行動を書きます。

原因は一つとは限りません。設備、材料、手順、環境、設定条件のうち、事実で確かめられるものから切り分けます。「注意が足りなかった」だけで完了にせず、注意に頼らずズレが見えるか、起きにくくできるかを考えます。

完了返信が次の気づきを育てる

返信は長い報告会でなくて構いません。「受け取った」「今は隔離した」「原因はこれだった」「正常写真を更新した」と、流れの節目で短く返します。発見した人が「言ってよかった」と分かることは、表彰よりも先に整えたい土台です。その積み重ねが、小さなズレを早く出せる空気を作ります。

小さく始める5段階の実践手順

ここまでの考え方を、現場で試す手順に落とし込みます。最初から完成形を目指さないことが、結局は近道です。一か所、一枚の正常写真、一つの受け皿から始め、気づきが完了まで流れるかを見ます。

第1段階:対象を一か所に絞る

「工場全体の清掃を点検へ変える」と考えると、設備ごとの基準、安全手順、記録の様式が一度に必要になります。まずは、汚れやズレが繰り返し現れる、毎日見られる、安全に観察できる、対応する人と相談できる、という条件が揃う場所を選びます。その場所で一週間程度、いつ、どんな変化が出るかを見てから基準にします。

第2段階:正常写真と停止基準を合わせる

対象を清掃し、正しい状態に戻した上で写真を撮ります。その写真を囲んで、現場のみんなで「どこが正常なのか」「どのズレはすぐ連絡か」「その場で戻してよいのはどこまでか」を合わせます。経験の異なる人が同じ写真を見て、同じ判断ができるかを試します。迷う言葉は、写真の矢印や具体的な条件へ置き換えます。

第3段階:発見から返信までを試す

一枚の記録票でも、共有ボードでも構いません。場所、状態、時刻を書き、誰が受け取るか、いつまでに最初の返信をするかを決めます。ここで確認するのは、気づきの件数ではありません。書きやすかったか、きちんと受け取られたか、対応が止まった時に分かるか、完了結果が発見者へ戻ったかです。

第4段階:繰り返すズレだけ原因へ進む

一度出た小さなズレをすべて深掘りするのではなく、影響の大きいもの、繰り返すもの、他の場所にもありそうなものを選びます。「なぜ」を繰り返す時も、最初から結論を「人が気をつける」にしません。発生条件、設備の状態、部品、材料、手順、環境を事実で切り分け、ズレを起きにくくするか、起きても見えるようにします。

第5段階:同じ原理が使える場所へ広げる

試行が回ったら、帳票をそのまま全社に配るのではなく、うまく機能した共通点を整理します。「正常写真で比べた」「汚れの発生源を見た」「受付と完了を分けた」などです。次の場所では、その考え方を残しつつ、安全条件と正常基準を作り直します。横展開は単純なコピーではなく、現場ごとの再設計です。

五段階は一方向ではありません。設備が変わった、生産品が変わった、記録が負担になったという時は、正常定義や試行へ戻ります。戻ることは失敗ではなく、現場の変化に合わせて仕組みを生かし続ける動きです。

清掃活動レベル比較表と現状診断

「うちはどこまでできているのか」を話す時は、良い・悪いの二択にしないことが大切です。下の三段階は、会社を格付けする公的な等級ではありません。次に何を足すかを話すための診断用のものさしです。

確認項目レベル1:美化中心レベル2:点検つき清掃レベル3:異常対応の仕組み
目的汚れを取り、きれいに見せる正常と比べてズレを見つける発見を復旧・原因対策へつなぐ
基準「きれいに」という抽象表現正常写真、位置、数量、状態がある停止、連絡、対応期限まで決まっている
清掃中の視点ゴミと汚れ汚れ方、ズレ、擦れ、音などの変化変化の原因候補と同じパターンの再発
発見後拭いて終わる口頭で伝える、または記録する受付、優先付け、復旧、完了返信まで追える
成果の見方見た目、実施率気づきの内容、受付状況滞留、完了、再発、正常基準への反映
次の一歩一か所の正常写真を作る受け皿と返信期限を決める再発案件の原因対策と横展開を行う

チェックリストは評点より対話に使う

次の項目に「はい」が少なくても、それは誰かの努力が足りない証拠ではありません。今の仕組みに次の一歩が見えた、と捉えてください。

  • 清掃箇所ごとに、正常状態の写真または図がある。
  • 写真に、どこを比べるかが短く書かれている。
  • 見てよい範囲、触れない範囲、停止・連絡の基準がある。
  • 異常の受け皿が一つに決まっている。
  • 第一報は場所・状態・時刻で送れる。
  • 緊急連絡と、通常の確認依頼が分けられている。
  • 報告を受け取ったことが発見者に戻る。
  • 「様子見」に期限と確認条件がある。
  • 応急処置と原因対策が分けて記録される。
  • 完了は修理終了だけでなく、正常確認と結果返信まで含む。
  • 同じ場所の再発を定期的に見直している。
  • 設備、製品、レイアウトが変わった時に正常基準を更新している。

一度にすべてを満たす必要はありません。今「いいえ」の項目から、一番小さく変えられるものを一つ選びます。たとえば、新しいシステムを入れる前に、既存のホワイトボードへ「受付済み」と「完了」の欄を足すだけでも、滞留は見えやすくなります。

失敗しやすい進め方と立て直し方

清掃点検の取り組みが止まる時、現場の人間はその前に、何らかの無理を感じています。書くことが多すぎる、報告しても戻ってこない、作業を止めた後の判断が遅い。その声は抵抗ではなく、仕組みを直す手がかりかもしれません。

失敗1:全社一斉に完成形を入れる

一斉導入は足並みが揃うように見えますが、設備ごとに正常も危険も違います。結果として、どこでも使える抽象的な項目ばかりが残り、点検は印を付ける作業になりがちです。一か所で「発見→受付→完了」までを回し、残す部分と現場ごとに変える部分を分けてから広げます。

失敗2:気づき件数を競わせる

件数に注目しすぎると、小さく分けた記録が増えたり、反対に数が少ない職場が活動不足と見られたりします。件数は入口の量であって、改善の質そのものではありません。未完了の滞留、受付までの時間、完了返信の有無、再発の有無を一緒に見ます。数値は誰かを評価するためではなく、流れの詰まりを探すために使います。

失敗3:報告を受け取るだけで終える

報告を入れる箱に紙が溜まると、出した人は「書いても同じ」と感じます。すぐに解決できなくても、受付したこと、現時点の判断、次の確認日を返すことはできます。すぐに対応できない時も、その理由と代わりにできることを伝えます。返事がない状態よりも、未完了であることが見える方が、次の判断につながります。

失敗4:すべてを原因分析の対象にする

原因を考えることは大切ですが、記録されたすべてに重い分析を求めると、報告すること自体に抵抗が生まれます。緊急度、影響度、再発頻度、横展開性で優先順位を付けます。一度で終わった青の案件は記録して完了とし、繰り返し現れるようなら原因対策へ進めます。

失敗5:守られない時に人を責める

ルールが守られないなら、現場が変わっていないか、手順が長すぎないか、道具が遠くないか、一つの気づきに求める仕事が多すぎないかを先に見ます。J-Net21の公開解説でも、生産状況の変化に合わせたルールの点検・是正が定着に大切とされています。「守れ」ではなく、「どこで流れが止まるか」を一緒に確かめましょう。

立て直す時は、活動を追加する前に減らせるものを探します。使われない記録欄、重複した伝達先、誰も見ていない集計を減らし、正常と比べること、安全に止めること、受付と完了を返すことへ力を絞ります。

現場の暗黙知を共有資産に変える

異常検知で最も大きな資産は、毎日対象を見ている現場の人間の比較力です。音の高さ、汚れが付く速さ、手に伝わる感じ、動きの間。言葉になりにくい感覚は、マニュアルに書かれていなくても、変化を早く捕まえる手がかりになります。それを特定の人の技のままにせず、みんなが使える比較基準へ変えていきます。

「なんとなく変」を否定せず、条件を聞く

「いつもと音が違う」という声に対し、数値がないからといって退けないでください。ただし、そのままでは別の人が比べられません。「いつから」「どの位置で強く聞こえるか」「立ち上げ時か、連続運転時か」「製品や材料が変わった時だけか」を聞きます。擬音、録音、場所の写真、発生条件を組み合わせると、別の人が確認できる手がかりになります。

においや振動など、記録するために危険へ近づいてはいけません。まず安全に止めて離れ、発生した条件だけを伝えます。記録の詳しさより、人の安全と設備の安全を優先します。

写真と一言メモを「比較の組」にする

情報を溜めるだけでは、必要な時に探せません。記録には対象名、場所、日付、正常、変化、確認結果という共通の見出しを付けます。「油漏れ」という名前だけでなく、「右側の受け皿」「運転後」「粘りのある液体」と条件を添えます。あとから同じパターンを探しやすくなります。

また、正常写真は一度作ったら終わりではありません。部品を変えた、飛散防止のカバーを足した、配管を取り回し直したなど、改善後の正常を撮り直します。古い正常が残ると、改善した結果が新たな「ズレ」に見えてしまいます。

デジタル道具やAIは暗黙知を探しやすくする補助にする

写真と記録が増えたら、共有表、二次元コード、タブレットなどを使うと、対象の近くで正常写真と過去記録を開けます。AIには、記録の言い回しを揃える、類似する記録候補を探す、返信待ちを一覧化するなどの補助が考えられます。

ただし、何が正常か、作業を止めるか、設備に触れてよいかという判断を、根拠の分からない出力に任せてはいけません。道具は、現場の人間が持つ比較力を置き換えるものではありません。ほかの人も変化を見つけ、正常と比べ、安全に行動できるように補助するものとして使います。

暗黙知の共有は、ベテランさんの技を奪うことではありません。今まで守ってきた比較基準を、現場の仲間が使える形で残すことです。そのうえで新しい人の気づきが加われば、正常基準そのものも育っていきます。

よくある質問

清掃を点検へ変えようとすると、時間、記録、判断範囲、効果の見方に疑問が出ます。ここでは、現場で話題になりやすい五つの問いに、小さく始める前提で答えます。

清掃時間を増やさないと、異常検知はできませんか?

最初から時間を大幅に増やす必要はありません。清掃対象を一か所に絞り、「拭く前に汚れの出所を見る」「正常写真と一点だけ比べる」というように、今の動作の中に観察を入れます。ただし、報告が増えても対応する時間がなければ滞留します。受け皿を作るなら、受付と判定に使う時間もセットで決めてください。

どこまでを異常とすればよいですか?

「古い」「汚れている」だけでなく、決めた正常から外れているかで見ます。そのうえで、危険や品質影響が疑われる赤、すぐの影響は不明だが確認が要る黄、決めた手順で戻せる青のように分けます。等級の名前より、その次の行動が同じになることが大切です。迷うケースは記録し、定期的に基準を見直します。

異常を見つけた人が修理まで行うのですか?

いいえ。発見、停止判断、隔離、復旧、原因対策は分けて構いません。発見者の役割は、危険があれば決めた手順で止める、近づかない、場所・状態・時刻を伝えるところまでで十分です。設備を分解する、充電部に近づく、保護を解除するなどは、決めた資格、手順、安全条件の下で行います。気づいたことと、直せることを混同しないでください。

5Sを異常検知へ変えた効果は、何で見ればよいですか?

不良率や停止時間との関係を見ることはできますが、5Sだけの効果と断定するのは慎重にします。まずは運用に近い指標を見ます。受付から最初の返信までの時間、未完了の滞留日数、完了返信の割合、同じ場所での再発、正常写真の更新数などです。その後、設備停止、不良、手直し、安全上の気づきとの関係を時系列で確認します。

センサーやAIを先に入れた方がよいですか?

正常状態、収集する情報、異常時の行動が決まっていない段階では、道具を入れても通知が増えるだけになる可能性があります。まず人が見ている変化を、写真、場所、条件で整理します。その上で、人が常時見られない、数値の傾向を見たい、過去記録を探しにくいという明確な課題に対して使います。道具は気づきと比較を助けますが、安全や品質に関わる最終判断を自動化する前に、人が確認する手順と、安全側に止める基準を決める必要があります。

まとめ:明日は一か所の正常を決める

5Sを清掃で終わらせず、異常検知と未然防止へつなぐために、現場全体を一度に変える必要はありません。清掃を続けてきた皆さんには、すでに汚れ方の違いや、いつもと違う音に気づく力があります。次に整えたいのは、その気づきを放置せず、安全に対応へつなぐ流れです。

要点は五つです。正常を決める。今と比べる。危険なズレを止める。場所・状態・時刻を次へつなぐ。受付と完了の結果を返す。そして、拭いた、直したで終わらず、影響が大きく再発する案件は原因対策へ進めます。

明日の清掃では、一か所だけ選んでみてください。正常な状態を写真に撮り、「どこを比べるか」を一言添える。次に、ズレを見つけた時の受け皿と、最初の返信期限を決める。これだけなら、今の清掃を否定せずに始められます。

試してみて、記録が重ければ減らす。基準で迷うなら写真を更新する。報告が滞留するなら、対象を広げる前に受け皿を直す。そうやって仕組みを現場に合わせること自体が、継続改善です。

自社のどこから手を付けるか迷う場合は、清掃箇所、正常基準、異常時の流れを並べ、止まっている一か所を確認するところから始めてみてください。必要なら、5S-CONCEPTへご相談ください。現場の今の努力を土台に、清掃から異常検知への次の一歩を一緒に整理します。

この記事を書いた専門家

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。16年間で900社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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